「江戸の人たちが、江戸の野草から育て上げた唯一の園芸植物」とされるサクラソウ。武士たちが新種の品評会を開いて愛でてきたこの花は、戦後は愛好家が力を合わせ、戦禍を免れた品種の保存に努めてきた。都立神代植物公園(調布市)では、その思いを受け継いだサクラソウたちが春の芽吹きを待っている。
同園には全国で唯一、現存するほぼ全てのサクラソウの品種があり、その数は約300品種。2018年には日本植物園協会の園芸文化遺産「ナショナルコレクション」に認定されている。
多彩な花色、想像力をかきたてる「花銘」
サクラソウは純白から淡い桃色、紫など花色も多彩。「花銘」と呼ばれる花の名前も趣向を凝らしている。花弁が純白色の「山下白雨」は葛飾北斎の「富嶽三十六景」の同名の作品にちなみ、能の曲目に見立てた「西王母」、「井筒」など、古典的な詩歌や伝統芸能などに見立てることも多い。命名者の花への愛情や、見た人の想像力をかき立てる要素でもある。
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江戸時代から続く種を守る「芽分け」
2月上旬、同園ではサクラソウの「芽分け」作業が行われていた。鉢の中を全てだし、サクラソウの地下茎を取り出す。根の脇には灰色がかった「芽」が。根に付いた土を優しく落とし、芽ごとに分けていく。これが「芽分け」の作業で、江戸時代から続くやり方だという。新しく培養土を入れたポットに、芽を並べ土をかぶせる。種子で増やすこともできるが、交雑してしまうため、品種を守るには芽分けで増やす必要があるという。黙々と作業を続け、1品種につき3鉢ほど、計1300鉢に植え替える。4月になると、花を咲かせるという。
サクラソウを担当する同園職員の林毅さんは「江戸時代からの管理方法を、自分もやっていると思うと不思議な気分になる。後世に伝えられるようにと、使命感も感じます」と話す。
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